僕にも夢があった。かなわなかったけれど――。夢破れて去っていく斬られ役に声をかけたのは、あの人だった。長い間、どうにもならない思いを抱えてきた人生の先輩として。3月9日のカムカムエヴリバディで描かれたのは、大切なものとの別れだ。
大部屋俳優の五十嵐(本郷奏多)は、人生をこじらせていた。ライバルが出世していく中、自分は万年斬られ役。とうとう、ひなた(川栄李奈)との結婚も殺陣を極める夢もあきらめ、映画村を去ろうとする。
そんな時、映画村の休憩所に思わぬ人物が現れる。
聞けないCD
五十嵐に会いに来たようで、餞別(せんべつ)のつもりか、手にはCDを持っている。トミー北沢(早乙女太一)のものだ。
「知ってる? 僕の友達」
錠一郎(オダギリジョー)だ。
「僕もなあ。夢があったんや。若いころ」
暗闇の道の向こうに
「一度は手が届いたように見えたけど。あかんかった」
錠一郎は、一度もCDを聞けずにいると話す。自分はトランペットを吹けなくなったのに、トミーはレコードやCDを出し、渡米まで。届かなかった夢を見るのがつらかった。
「そやから、僕にはわかるんや」
五十嵐がひなたを大事に思っていること、だから別れること。自分がかつてるい(深津絵里)の前から消えようとしたように。
トランペットを吹けないままの錠一郎は、五十嵐にどんな言葉を贈るのでしょうか。虚無蔵の言葉とともに、記事後半で。
今があるのは、暗闇の道の先…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル